shinriki’s blog

神力の備忘録としてのブログです

変貌する日本の大学教授職

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著者: 有本章

出版社: 玉川大学出版部

サイズ: 単行本

ページ数: 362p

発行年月: 2008年11月

ISBN:9784472403811

グローバル化、市場化、知識社会化の進行に伴い、大学教授職は、学問的生産性や人材育成の役割をより強化することが社会から要請されている。

知の再構築と呼応して大学改革が行われた激動の15年間に大学教授職はどのような変貌を遂げたのか。

学問の府から知の企業体へと大学が舵を切るなかでの新しい大学教授職像を分析。

日本の大学教授職―過去と現在

 1研究の視点、2社会変革と大学変革-社会との関係、3社会変化と大学改革-政府との関係

 4大学との関係、5学問分野との関係、6大学教授職の変化、7調査の方法、まとめ

第1部 環境の変化

 1章 高等教育政策と大学教授職の変貌

  1「教育改革」の流れ、2「教育改革」の大道具、3任期制の導入、4GPの誕生

 2章 流動性

  1流動性の概念と関連研究の展開、2流動性の分析 枠組みと調整次元、

  3構造改革期における流動性の検証

 3章 大学ファンディング

  1機関補助と個別補助、21992年以前、31990年代、42000年代、

  5私立大学を巡る状況、6カーネギー調査にみる競争的資金拡大の影響

 4章 学生観-大衆化への対応

  1高等教育適正規模、2学力・能力・学習態度観、3授業観

 5章 ジェンダー・バイアス-女性教員の何が変化したのか

  1教員のプロフィール、2 教員の役割、3大学という職場

第2部 大学組織と生活

 6章 管理運営

  1潜在化していた問題、2教員から見た管理運営の現実、3仕事満足度と利殖性向、

  4管理された大学

 7章 研究費の配分

第3部 学問的生産性と評価(研究生産性;研究と教育の葛藤 ほか)

第4部 社会への影響(国際化;高等教育と社会)

大学教授職の展望

筆者は、カーネギー教育振興財団が1992年と2007年に実施したアンケート調査

「大学教授職に関する国際調査」の日本版を用いて、この15年間に日本の大学教員を

とりまく状況がどのように変貌したかを実証的に明らかにしようとしています。

1992年から2007年までの15年間は、日本の大学にとって激動の時代であったと思います。

平成3年に始まった大学設置基準の大綱化に象徴されるように「規制緩和」が進み、

市場原理の導入、第三者評価の導入、厳密な成績評価やFDなど学士課程教育の改革、

国立大学の独立行政法人化などが行われました。

これらの「改革」が、大学教育職員という人材の流動性、大学のファンディング、管理運営、

研究費の配分、労働条件、教員のストレス、研究生産性、国際化などなどに、どのような

影響を及ぼしたか。17人の著者により、18章にわたって各種の調査データの分析に

基づき詳細に紹介されています。

任期制の導入を契機にして流動性が高まってはいる。[が、テニュア制と連動して制度化された任期制ではないため、アカデミック・プロフェッションに寄与するものではない。](p.78)

機関補助を減らして個別補助(競争的ファンディング)を増やすという現在の傾向を単純に推し進めればいいということにはならない。(p.106)

大学教員のアイデンティティは、職場である大学よりも、専門分野にウエイトが置かれている。(p.136)

交付された研究費あたりの生産性は向上しておらず、むしろ低下している場合がある。(研究時間の減少、あるいは多忙化による生活時間全体の劣化が原因として考えられる。)(p.178)

研究費が増加しても満足度は直線的には上昇していない。(研究資金を得るための申請作業で多忙になったこと、高額な研究費を得てもそれを支える研究条件が不十分であること、高額な研究費を得ると失敗が許されないため自由で挑戦的な研究ができにくくなること、研究期間が限定されるため安定性に欠けること、などが理由として考えられる。)(p.179)

大学間で異動しても、給与面で不利になることはなくなった。(p.230)

教育活動に充てられる時間は、この15年間でそれほど変化していないが、研究活動に充てられる時間は大きく減少している。その分、管理運営と社会サービスに充てられる時間が増加しており、特に管理運営時間の増加が著しい。(p.271)

評価の負担が確実に増えているにもかかわらず、その負担に見合った生産性が達成されていない。[法律による義務化により強制するような、日本の外発的動機付的な評価制度を、皆で思い切って疑ってみるという姿勢を取ることはできないものであろうか。](pp.291-2)

などなど。

shin〓〓〓